片栗粉・コーンスターチから加工でんぷんまで-でんぷんの特徴と役割-
1. はじめに:小麦粉以外にも広がる“でんぷんの世界”
前回の2025年7月22日号のコラムでは、小麦粉の約70%がでんぷんであり、料理の仕上がりに大きな影響を与える重要な成分であることをご紹介しました。
その性質は、私たちが日常的に作る料理の中でも活かされています。
たとえば、ホワイトソースやカレーのルーは、小麦粉を油で炒めてから液体を加えることでとろみがつきます。これは、小麦粉に含まれるでんぷんが加熱によって糊化(こか)し、液体を抱え込んで粘度を生み出す性質を利用しているのです。
つまりルーづくりは、小麦粉のでんぷんの力を活用した調理法と言えます。
一方、片栗粉やコーンスターチは、小麦粉のようにタンパク質(グルテン)を含まず、ほぼ100%がでんぷんです。ジャガイモやトウモロコシからでんぷんだけを取り出した、いわば“でんぷんを主役とした食品素材”です。
そのため、でんぷんの働きがよりストレートに表れ、透明感のある強いとろみやもちっとした食感を生み出せます。
このように、小麦粉に含まれるでんぷんと、でんぷんだけを取り出した片栗粉・コーンスターチでは、料理での使われ方や仕上がりにそれぞれ特徴があります。
今回のコラムでは、この違いをさらに掘り下げ、でんぷんの種類ごとの特徴と、食品加工で用途を広げた“加工でんぷん”の機能についてわかりやすく解説していきます。
2. でんぷんの種類と特徴
でんぷんは、原料によって粒子サイズや性質が異なり、料理の仕上がりにも大きく影響します。
まず代表的なでんぷん4種を比較してみましょう。表1は、でんぷんの種類ごとの性質と用途をまとめたものです。
表1 代表的なでんぷんの種類と特徴
種類 | 原料 | 粒子の特徴 | とろみの具合 | 透明度 | 主な用途 |
片栗粉 | じゃがいも | 粒子が大きい | 強くてすぐつく | 高い(透明) | あんかけ、揚げ物の衣 |
コーンスターチ | とうもろこし | 中程度 | なめらかで安定 | やや低い | カスタード、スープ |
タピオカスターチ | キャッサバ | 小さく均一 | 強い粘りと弾力 | 高い | タピオカ、パン改良 |
米でんぷん | うるち米・もち米 | 小さい | しっとり感 | 白濁 | 和菓子、米粉パン |
※ 米でんぷんは家庭向けの製品としてはあまり見かけませんが、和菓子や乳児用食品、加工食品の原材料として広く利用されています。
それぞれの特徴を見ていくと、料理ごとの適性が見えてきます。
- 片栗粉は、粒子が大きく、透明感のある強いとろみが特徴。あんかけや揚げ物の衣に最適です。
- コーンスターチは、粒子が中程度で、なめらかで安定したとろみ。カスタードやスープなどのクリーミーな料理に向きます。
- タピオカスターチは、もちもち感と弾力が強く、パンやスイーツの食感改良に活躍します。
- 米でんぷんは、しっとり感が出やすく、和菓子や米粉パンで重宝されます。
こうして比較すると、“どの料理にどのでんぷんを選ぶか”という判断がしやすくなり、仕上がりをコントロールできるようになります。
💡 家庭での使い分けのコツ
- 粒子の大きさに注目:粒が大きいほど“強いとろみ”がつき、冷めてもやわらかさを保ちやすい。
- 透明度で選ぶ:見た目重視のあんかけには片栗粉、クリーミー系にはコーンスターチがおすすめ。
- ブレンドもおすすめ:片栗粉+コーンスターチで透明感+安定感のいいとこ取りができる。
しかし、天然のでんぷんだけでは調理や加工に限界があります。ここで登場するのが、より使いやすく改良された「加工でんぷん」です。
3. 加工でんぷんとは
加工でんぷんとは、天然のデンプンを物理的・化学的な方法で改良し、調理や加工食品に求められる機能を高めたものです。
通常のデンプンは、加熱・冷却・酸・油分の影響で粘度が変わりやすく、品質が安定しにくいという課題があります。そこで、分子構造を部分的に変化させたり、加熱や乾燥などの工程を加えたりして、耐酸性・耐冷凍性・即溶性といった新たな特性を付与しています。
主な種類と特徴(代表例)
- 🍋 耐酸性でんぷん:酸味の強いソースやドレッシングでも分離しにくい
- ❄️ 冷凍耐性でんぷん:冷凍後に水分離が少なく、パスタやシチューの品質を保つ
- 💧 即溶性でんぷん:お湯を注ぐだけで簡単にとろみがつき、カップスープなどに利用
- 🍘 膨化用でんぷん:スナック菓子のサクサク感を出すために使用
こうした加工でんぷんは、プリン・ドレッシング・冷凍食品・インスタントスープ・スナック菓子など、私たちが日常的に口にする加工食品の食感や安定性を支える重要な役割を担っています。
食品表示での「加工でんぷん」
スーパーで売られている加工食品の原材料表示に「加工でんぷん」と書かれているのを目にしたことはありませんか?
これは複数の種類の加工でんぷんをまとめて示す総称であり、食品表示基準では具体的な改良方法まで記載せず「加工でんぷん」と一括表示することが認められています。
こうした一括表示は、加工でんぷんの安全性が確認されていること、および用途が非常に幅広く、詳細な処理名を記載するとかえって消費者が理解しづらくなることから、合理的な方法として採用されています。
4. 料理での活用例
でんぷんの特徴を理解すれば、料理の仕上がりを自在にコントロールできます。
ここでは、コーンスターチを加えてなめらかで安定した仕上がりにするカスタードクリームの作り方をご紹介します。
卵だけで作るカスタードクリームよりもダマになりにくく、冷めても固くなりすぎないのが特徴です。
レシピ:カスタードクリーム(約4人分)
材料
- 牛乳 300 mL
- 卵黄 3個
- 砂糖 60 g
- コーンスターチ 20 g
- バニラビーンズ 1/2本(またはバニラエッセンス少々)
作り方
- 卵黄・砂糖・コーンスターチをよく混ぜる
卵黄に砂糖を加えたらすぐ混ぜること。放置すると卵黄が固まり、舌触りが悪くなる原因になります。 - 牛乳を少しずつ加えてなじませる
ダマ防止のため、最初は少量ずつ加えて混ぜます。 - 弱火で加熱しながら絶えず混ぜる
目安温度は80〜85℃。これ以上加熱すると卵が分離してボソボソになるので注意。 - とろみがついたらすぐ火から下ろす
余熱で火が通るため、加熱しすぎないことが重要です。 - 氷水で急冷
表面にラップを密着させて乾燥を防ぎながら冷やします。
失敗防止のコツ
- 温度計を使う:80〜85℃が分離防止のカギ。
- コーンスターチは安定剤:卵黄だけのカスタードより失敗しにくく、冷蔵保存でもなめらかさを保てます。
5. まとめ
でんぷんは、単なるとろみ付けの材料ではなく、食感・透明度・保存性など料理の品質を左右する重要な素材です。
片栗粉・コーンスターチ・タピオカスターチ・米でんぷんといったそれぞれの種類には、粒子の大きさ・糊化特性・透明度といった異なる特徴があり、これらを理解することで料理や加工食品の仕上がりを自在にコントロールできるようになります。
さらに、加工でんぷんは食品科学の発展によって生まれた素材であり、ソースの分離防止、冷凍食品の品質保持、即席食品の調理性向上など、私たちの身近な食品の利便性とおいしさを支えています。
適材適所のでんぷん選びと使い分けは、家庭料理を一段上の仕上がりへと導く大きなヒントになります。
次回コラムでは、米粉の特徴と使い分け方を解説し、小麦粉との違いを明らかにする予定です。
参考資料
- 農林水産省:砂糖及びでん粉をめぐる現状と課題について(2023)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/attach/pdf/230905-4.pdf - 日本スターチ・糖化工業会
https://www.starch-touka.com/denpun/