異性化糖って知ってますか?~砂糖とはちょっと違う甘さの正体~

1. はじめに:

先週のコラム(2025年8月26日号)では、飲料ラベルから「どれだけ砂糖が入っているか」を角砂糖換算で見える化する方法を紹介しました。
今回はその続きとして「どの糖が使われているのか」に目を向けてみましょう。

清涼飲料や缶コーヒーのラベルをよく見ると、「果糖ぶどう糖液糖」や「ぶどう糖果糖液糖」といった、似たような名前の甘味料を目にすることがあります。
これらは、いずれも“異性化糖”に分類される甘味料です。

👉 異性化糖って知っていますか?
砂糖と同じようにブドウ糖と果糖でできていますが、姿かたちや性質には少し違いがあります。
今回は、この「異性化糖」の正体を整理し、砂糖との共通点や違い、そしてラベルでの見分け方を紹介していきます。

2. 異性化のしくみ

砂糖(ショ糖)はサトウキビやテンサイの汁を精製して結晶化したもので、「ブドウ糖1分子と果糖1分子」が結合した二糖類です(図1)。

これに対し、**異性化糖はブドウ糖と果糖が“結合せずに混ざった液体”**です。成分そのものは同じ単糖類ですが、構造のあり方が違います。

さらに大きな違いは原料です。異性化糖はトウモロコシなどのデンプンを出発点とし、酵素処理によって作られます。

  • デンプンを加水分解してブドウ糖液を得る
  • 酵素(グルコースイソメラーゼ)で一部を果糖に変換する

こうして得られるのが、ブドウ糖と果糖の混合液=異性化糖です(図2)。

この「ブドウ糖を果糖に変える」プロセスが「異性化」という名前の由来です。


図1 ショ糖と異性化糖の構造イメージ:ショ糖は結合型、異性化糖は混合型
図2 トウモロコシのでんぷんから作られる異性化糖:ブドウ糖液を酵素で果糖に変える

3. ショ糖との共通点と違い

砂糖(ショ糖)と異性化糖は、いずれもブドウ糖と果糖という同じ単糖類で構成されています。そのため体内に入れば同じように小腸で吸収されます。ただし、すでに触れたとおり製造方法の違いのほか、性質にもいくつかの違いがあります。

  • 構造の違い
    • ショ糖:ブドウ糖と果糖が1対1で結合した二糖
    • 異性化糖:ブドウ糖と果糖が結合せずに混合
  • 物性の違い
    • ショ糖:結晶化して固体で流通
    • 異性化糖:液体で安定。冷たい飲料でも甘味を感じやすい
  • 用途の違い
    • ショ糖:菓子や調味料など幅広く使用
    • 異性化糖:清涼飲料、加工食品に多用

👉 同じブドウ糖と果糖でできていながら、結合しているか混ざっているか、固体か液体か――その違いが砂糖と異性化糖を分けています。

4. JAS名称の見分け方

スーパーやコンビニのラベルに並ぶ「果糖ぶどう糖液糖」や「ぶどう糖果糖液糖」。これらはいずれも異性化糖を指す甘味料です。では、なぜ名称が分かれているのでしょうか。

これは食品表示法に基づき、JAS規格(日本農林規格)で果糖の割合によって名称が決まっているためです。

  • 果糖ぶどう糖液糖:果糖50%以上90%未満
  • ぶどう糖果糖液糖:果糖50%未満
  • 高果糖液糖:果糖90%以上

果糖はブドウ糖よりも甘味が強く、冷たい状態でも甘さを感じやすい性質があります。そのため、果糖の割合によって味わいや用途が変わることから、この基準で分類されています。

👉 ラベルを見るときは「果糖の割合=甘さの特性」を示す指標と考えるとわかりやすいでしょう。

5. 家庭での選び方

「異性化糖」と聞くと耳慣れず、さらに“でんぷんを酵素で処理して作る”と知ると、砂糖より健康によくないのでは?と感じる方もいるかもしれません。

しかし、体内に入れば砂糖も異性化糖も最終的にはブドウ糖と果糖に分かれて吸収される点で共通しています。
つまり、『異性化糖=人工的、砂糖=天然』といった単純な区別はできません。

大切なのは種類よりも「量と頻度」をどうコントロールするかです。

  • 清涼飲料水によく使われる異性化糖は、どのくらいの量を、どんなタイミングで飲むかを意識する
  • 菓子や調味料によく使われる砂糖は、食事全体の合計摂取量を意識する

👉 「どれだけの量を、どのくらいの頻度で口にしているか」を把握することが、健康リスクを抑える第一歩です。

6. まとめ

ここまでの内容を整理すると、異性化糖について理解すべき要点は次の通りです。

  • 異性化糖はトウモロコシなどのデンプンを酵素処理して得られるブドウ糖と果糖の混合液である
  • 「果糖ぶどう糖液糖」「ぶどう糖果糖液糖」はいずれも異性化糖である
  • JAS規格では果糖の割合によって名称が定められている
  • 砂糖も異性化糖も体内ではいずれもブドウ糖と果糖に分解され吸収されるが、構造や物性に違いがある
  • 健康面では種類よりも量と頻度のコントロールが重要である

以上を踏まえると、異性化糖は、砂糖と同じく「使い方次第の甘味料」であることがわかります。大切なのは種類にこだわることよりも、日常生活での摂取量と頻度を意識することです。


👉 今日の買い置き飲料や甘味料ラベルを1つだけ確認してみましょう。

「果糖ぶどう糖液糖」なのか、「ぶどう糖果糖液糖」なのか、それとも「砂糖」なのか――。
その違いを意識するだけで、普段の1本の意味がぐっと変わって見えてくるのではないでしょうか。

📌 次回予告
次回は、異性化糖の表示ルールや制度について紹介します。

参考資料

  • 農林水産省農産局地域作物課 異性化糖をめぐる状況について
    https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/kansho/iseikato/attach/pdf/iseikato-2.pdf