強すぎないうま味を、確かめてみる―里芋の煮物で一区切りする、うま味の話
1. はじめに―うま味の話を、もう一度台所で
これまでのコラム(2025年11月25日号、2025年12月2日号、2025年12月9日号、2025年12月16日号)では、うま味について考えてきました。
うま味とは何か、なぜ相乗効果が起きるのか。
そしてそれが、隠し味という形で料理にどう現れるのか。
理屈としては、ある程度整理できたと思います。
ただ、うま味というテーマは、頭で理解するだけでは終われません。
最後に残るのは、食べたときに「どうだったか」という感覚です。
そこで今回は、うま味の話を、台所で確かめる形で締めくくることにしました。
難しい道具や特別な条件は使いません。いつもの台所で、里芋の煮物を作り、比べてみるだけです。
2. なぜ里芋なのか―うま味が前に出すぎない素材
今回の実験に選んだ素材は、里芋です。
里芋は、それ自体が強いうま味を持つ食材ではありません。
肉や魚のように主張はしない一方で、ほんのりした甘味や、でんぷん由来のコク、独特のねっとり感を持っています。
つまり里芋は、うま味を足したときに、その「強さ」ではなく「なじみ方」がはっきり表れる素材だと言えます。
うま味を強くすれば、その存在が前に出ます。
うま味を控えめにすれば、里芋自身の質感と一体化します。
その違いが、非常に分かりやすいのです。
また里芋は、煮しめなどのおせち料理にも使われてきた食材で、冷めて食べることを前提とした料理とも相性がよい素材です。
うま味が強すぎると破綻しやすい料理の中で、里芋は「ほどよさ」がそのまま味に表れます。
ちょうど今の時期は、里芋が手ごろに手に入りやすく、家庭の台所で試しやすい食材でもあります。
特別な準備をしなくても扱える点も、今回の題材として選んだ理由の一つです。
3. 実験の考え方―変えるのは、出汁の条件だけ
今回の実験で大切にしたのは、条件を増やしすぎないことでした。
材料、切り方、下処理、味付け、加熱時間はすべて同じにします。
変えたのは、出汁の条件だけです。
用意したのは、次の3種類です。
一つは、控えめな昆布出汁。
一つは、一般的とされる昆布と鰹の合わせ出汁。
そしてもう一つは、やや強めにとった合わせ出汁です。
出汁の取り方や分量は、あくまで差が分かるように段階を分けました。
狙いは、「どれが一番おいしいか」を決めることではありません。
うま味の強さを変えると、感じ方がどう変わるのかを確かめることです。
見た目だけを見ると、3つの条件に大差がないように見えるかもしれません。
煮え方や色合いも、ほぼ同じです。
ところが、実際に口にすると、その印象は変わりました。
4. 実際に食べてみて―熱々と、冷めたあとの違い
出来上がってすぐ、熱々の状態で食べ比べると、うま味の強い条件は分かりやすく印象的でした。
一口目の満足感は高く、「おいしい」と感じやすいのは確かです。
しかし、少し時間を置き、粗熱が取れた状態で改めて食べてみると、印象が変わります。
うま味の強い煮物では、出汁の存在が前に出すぎ、里芋のねっとりした質感や、ほのかな甘味が後ろに押しやられてしまいました。
後味に、少し重さが残りました。
一方で、控えめから標準程度の出汁で煮た里芋は、冷めても印象が大きく崩れません。
うま味は主張しすぎず、里芋の持つ食感と自然に溶け合い、食べ進めやすさが残りました。
5. 考察―相乗効果は、味のバランスをつくる力
この結果は、これまでのコラムで扱ってきた内容とよく一致します。
相乗効果は、うま味をできるだけ強くするための仕組みではありません。
複数の味が互いに引き立て合い、全体のバランスを整えるための働きです。
うま味を足しすぎると、そのバランスは崩れやすくなります。
出汁の存在が前に出ることで、里芋本来の食感や甘味との関係が弱まり、
結果として一体感が損なわれてしまいます。
里芋のように自己主張の少ない素材では、この違いが特にはっきりと表れました。
うま味が控えめな条件では、素材の持ち味と出汁が無理なくなじみ、
冷めても印象が大きく変わりません。
強いうま味は、一口目でははっきりと感じられます。
しかし、冷めて食べる料理や、何口も食べ進める料理では、ほどよいうま味のほうが、
結果として満足感が高いことが分かります。
6. まとめ―うま味の話は、ここで一区切り
ここまでで、うま味についての話はいったん一区切りとします。
うま味は、強くすればよいものではなく、
他の味や食感とどう関係づけるかで意味を持つことが、
里芋の煮物を通して実感できました。
理屈から始まり、相乗効果を整理し、
最後は台所で確かめる。 この流れで、うま味について一つの整理ができたように感じています。
7. 次回へ―台所で「体感する」時間へ
ここからは、少し視点を変えます。
これまで書いてきたような考え方を、
実際に手を動かしながら体験する場をつくることにしました。
料理は、読むだけでは身につきません。
作って、味わって、比べてこそ、腑に落ちるものです。
次回からは、体験教室について、
少しずつお知らせしていく予定です。





