粉によって、お好み焼きの食感はどれだけ変わるのか?

1. はじめに:ふわトロ感は、粉の違いで生まれる?

2025年6月24日号のコラムでは、薄力粉と強力粉からグルテンを実際に取り出して比較する実験を行い、粉の種類によって含まれるたんぱく質の量(=主にグルテンのもとになる量)に違いがあることを確認しました。

ではその違いは、実際の料理にどのように表れるのでしょうか?
今回はその続編として、グルテン量の違いが、焼き上がったお好み焼きの“ふわトロ感”や“もちもち感”といった食感にどう影響するのかを検証してみました。

家庭でよく使われる「薄力粉」と「強力粉」、そしてスーパーで市販されている「お好み焼きミックス粉」の3種類を使い、焼き上がりの厚み、断面の気泡の状態、口当たりなどを比較。
粉の違いによって焼き上がりや食感に明確な差が生じることが確認できました。

また、市販ミックス粉には、ベーキングパウダーや増粘多糖類などが加えられています。これらの添加物が、“お店の味”に近づける要因になっているのかどうかについても、体感を通して探っていきます。

2. 実験デザイン

今回の実験では、粉の種類によってお好み焼きの焼き上がりや食感にどのような違いが生まれるかを検証するため、材料と調理条件をできるだけ統一したうえで、以下の3種類の粉を比較しました。

共通レシピ(1枚分)

材料備考
キャベツ75 g粗みじん切り
1/2個Mサイズ
30 mL室温
だしの素小さじ1/4顆粒
粉(以下から選択)25 g粉の種類を入れ替え
サラダ油小さじ1強フライパンに薄く広げる

使用した粉の種類

サンプル粉の種類タンパク質量(参考)特記事項
A薄力粉約6–9%最もグルテンが少ない
B強力粉約11–14%最もグルテンが多い
C市販ミックス粉10.8%ベーキングパウダー入り

※ミックス粉は、市販の「お好み焼き用」と表示された製品を使用しています。

操作条件(統一)

粉以外の影響を排除するため、以下の調理条件をすべてのサンプルで統一しました。なお、混ぜる時間はすべて1分に統一し、混ぜすぎによるグルテン形成の差が出ないようにしました。

  • 混ぜ時間: 1分(タイマー使用)
  • 焼成条件:
    • 中火で2分加熱(底面を焼き固める)
    • ふたをして弱火で3分(内部を蒸し焼き)
    • 裏返してさらに2分(上下面を均一に加熱)
  • 厚みの調整:直径9cmのセルクル(円形の型)に流し込み、厚みを揃えることで、仕上がりの差異をより明確に比較できるようにしました。

3. 比較と結果

粉の違いを視覚的に確認するため、ここでは 焼き上がり全景(真上写真) と 断面写真 を並べて比べました。
すべて同一条件(混ぜる時間1分、焼成7分)で調理しているため、写っている差は ほぼ粉の種類だけに由来します。

写真とキャプションを見ながら、

  1. 表面の焼き色・ふくらみ
  2. 厚みと断面の気泡(キャベツの詰まり具合)
  3. カットしたときの崩れやすさ

──の3点に注目してご覧ください。

A 薄力粉

薄力粉:表面は軽めの焼き色。やや平らでふくらみ控えめ
薄力粉:断面はきめ細かいが、キャベツが詰まって高さが出にくい

B 強力粉

強力粉:焼き色しっかり。表面はややドーム状だが全体は重め
強力粉:キャベツ間の空気層が少なく、モチモチで密度が高い

C ミックス粉

ミックス粉:表面がふっくらと大きく盛り上がる
ミックス粉:大小の気泡が入り、厚みも出て“ふわトロ”感アップ

写真で比べると、ミックス粉(C)は表面が最もドーム状に盛り上がり、断面にも大小のすき間が入り、ふわトロらしい厚みをキープしているのがわかります。
一方、薄力粉(A)は高さこそ控えめですが、気泡が細かく軽い口当たりに。
強力粉(B)はキャベツがぎゅっと詰まり、モチモチ感とともに“重さ”が出ているのが特徴です。

このように、 ふくらみ = 気泡の量と保持力が、粉の違いで変わり、
さらにベーキングパウダーや増粘多糖類といった添加物が加わると、さらに食感に差が生まれることが見えてきました。

4. 焼き上がりに差が出たのは?

写真で見られた、使用する粉の種類によって、「ふくらみ」や「断面構造」の差は、なぜ現れたのでしょうか?
ここでは、それぞれの違いが生まれた背景を、粉に含まれるグルテンや添加物の働きから考察します。

薄力粉(A)

  • グルテンが少ない
     → 形成されるグルテン網が弱く、生地の弾力やガス保持力が低い
  • 結果:軽くて崩れやすい仕上がりに
     → 焼いても厚みは出にくく、断面を見るとキャベツが詰まり気味

→ ふんわり軽いが、まとまりにくく、 ふくらみにくい

強力粉(B)

  • グルテンが多すぎる
     → 弾力が強く、練ることでさらに粘りが増す
  • 結果:モチモチするが、重たく厚みが出にくい
     → 気泡を抱える力はあるが、グルテンの引きが強いため、気泡が潰れやすく密な断面に

→ まとまりはよいが、お好み焼きには少し重すぎる印象

ミックス粉(C)

  • ベーキングパウダー
     → 生地に化学的なガス(二酸化炭素)を発生させ、ふんわり感を後押し
  • 増粘多糖類・加工でんぷん
     → 粘度と保水性を高め、生地のまとまりや口あたりをよくする
  • デキストリン・だし成分(鰹節粉末・昆布エキス粉末)
     → 風味や旨みの向上に寄与
  • 結果:厚みが出て、断面に気泡が多く、冷めてもふんわり

→ 添加物の働きで、最もふわトロ感が安定、家庭でも作りやすく、きれいに仕上がりやすい

このように、グルテンの量だけでなく、生地を膨らませる追加の要素も、外観に影響を与えていることがわかります。
こうした外観の違いが、実際に食べてどう感じられたのか、試食結果とともに見ていきます。

5. 粉が違うと食感が変わる

外観の違いを観察したあとは、実際に試食してみました。
すると、わずか 25 g の粉の違いが、焼き上がりの厚み・ふくらみ・口あたりにまで明確な影響を与えていることがわかりました。

以下に、今回の条件下で得られた特徴をまとめます。

粉の種類仕上がりの特徴向いている人注意点
薄力粉表面はやや平ら/断面はキメ細かい軽くて口どけ重視崩れやすく、厚みが出にくい
強力粉焼き色は均一/断面は密でずっしりモチモチ食べ応え派重たく感じやすい
ミックス粉表面がドーム状に盛り上がる/断面に大小の気泡“お店のふわトロ”に近づけたい人添加物の風味が気になる場合も

それぞれの特徴を踏まえた調理のヒントは以下の通りです:

  • 薄力粉:キャベツ多め&ライトな仕上がりに最適。ただし混ぜすぎには注意
  • 強力粉:グルテンをしっかり育てれば、パンケーキのようなモチモチ厚焼きに
  • ミックス粉:ベーキングパウダー+増粘多糖類の効果で、家庭でも安定してふっくら

ふわっと軽い、モチッと弾力、しっとりふわトロ──
粉の違いは、そのまま食感の違いにつながるということが今回の比較で明らかになりました。

理想の食感を目指すには、粉の選び方と、膨らみを生み・守る仕組み(ベーキングパウダーや増粘成分など)を理解して活用することが大切です。

6. 粉選びのヒント

「ふわっとさせたい」「もちっと食べごたえを出したい」など、理想の食感に近づけるには、粉の選び方だけでなく、混ぜ方や配合の工夫も重要です。
ここでは、仕上がりイメージに応じた粉の選び方と、ちょっとした調理のコツを表にまとめました。

目指す仕上がり推奨する粉 の種類と工夫
軽くて口当たり良く薄力粉 + 混ぜすぎない(目安:1分以内)
モチモチ厚め強力粉 + しっかり混ぜる(グルテンを育てる)
ふわトロで安定感市販ミックス粉をパッケージ手順どおり
グルテン量が少なめでライトな食感薄力粉 + ベーキングパウダー or 片栗粉を大さじ1追加

💡ワンポイントアドバイス

  • 混ぜる時間を管理するだけでも、仕上がりの差は明確に変わります。
  • 水分を5 cc増減するだけで粘度が変わるので、粉を替えた日は水も微調整してみてください。
  • 「粉 × 混ぜ方 × 具材バランス」を少しずつ変えることで、自分や家族の理想の食感に近づくと思います。

ぜひ、今回の結果を参考に “ベストお好み焼き” を探してみてください!