甘さは、最初に決められている―ユニリーバの「基準」という考え方

1. はじめに―「あとから減らす」と「最初から決める」

前回のコラム(2026年2月24日号)では、飲みものの甘さがどのように段階的に調整されているのかを紹介しました。

ゼロシュガー商品の拡充。
小容量化。
レシピの改良。

いずれも、「できあがった商品を少しずつ動かす」という設計でした。

しかし、設計の仕方はそれだけではありません。

最初から数値基準を設定し、その範囲内で商品を設計する企業もあります。

甘さをあとから減らすのではなく、最初から“ここまで”と決める。

今回は、そうした取り組みの一例を紹介します。

2. ユニリーバという企業

その例の一つが、ユニリーバです。

日本では、ラックスやダヴなどのブランドの石鹸、ボディソープで知られており、食品企業という印象はあまり強くないかもしれません。
しかし、世界では食品ブランドも多数展開するグローバル企業です。

ユニリーバは、自社の食品に対して、
Unilever Nutrient Profiling Model(UNPM)
という独自の栄養基準を設けています。

Unilever Nutrition Standards(公式ガイドブック)によれば、この基準はWHOなどの国際的な栄養ガイドラインを参照しながら設計されており、製品カテゴリーごとに糖、塩分、飽和脂肪酸などの上限値が定められています。

重要なのは、この基準が商品開発の初期段階から適用されるだけでなく、すでに販売されている商品についても、基準を超える場合には見直しや再設計の対象になるという点です。

つまり、新商品は最初から基準内で設計され、既存商品についても必要に応じて改良が進められます。

完成後に「少し減らそう」と場当たり的に対応するのではなく、基準を軸に設計と改良が進められています。

そこが、この取り組みの特徴です。

3. 基準の中で、どうおいしくするか

ここで大切なのは、基準を守ることが味より優先されるという意味ではないことです。

ユニリーバは、「おいしさ」と「栄養」の両立を掲げています。

糖の量に上限がある中で、どう満足感を保つか。

・香りを強める
・酸味とのバランスを調整する
・食感や濃度を工夫する

そうした工夫を重ねながら、基準の範囲内で味を組み立てていきます。

ここで行われているのは、単なる削減ではありません。

あらかじめ決められた条件の中で、どうすれば満足できる味になるかを探る設計です。

基準は制限ではなく、設計の前提です。
その前提があるからこそ、「おいしさ」との両立が試みられています。

4. 国が違っても、基準は共通

ユニリーバの特徴は、国ごとの制度に対応するだけでなく、自社としての基準を持っている点にもあります。

世界にはさまざまな表示制度や規制があります。
栄養表示のルールも、推奨値も国によって異なります。

そのなかで自社基準を持つということは、販売国が変わっても、一定の考え方で商品を設計できるということでもあります。

制度が変わるたびに大きく対応するのではなく、あらかじめ一定の枠を設け、その中で商品をつくる。

それが、基準を持つということの一つの意味です。

5. 人口スケールとのつながり

以前触れたWHOの「自由糖10%未満」という目安は、人口全体を対象にしたものです。

企業基準は、その目安を商品ごとの設計に落とし込む試みとも言えます。

一つひとつの商品が基準内で設計されれば、結果として市場全体の平均値が少しずつ動く可能性があります。

個人の選択だけに頼るのではなく、
商品設計の側からも平均値に働きかける。

それが、基準を持つという取り組みのもう一つの側面です。

6. 甘さは設計の対象である

甘さは偶然決まるものではありません。

あとから調整する方法もあれば、最初から基準を置く方法もあります。

どちらも、商品設計の一つのあり方です。

甘さは敵ではありません。

それは、どの程度に設定するかを考える対象です。

私たちの台所でも、「このくらいにしておこう」と目安を決めてから味を整えることがあります。

企業の基準づくりも、考え方としてはそれに近いのかもしれません。

甘さは、偶然ではなく、設計の結果です。

次回は、企業が制度の動きをどのように見ているのか、その視点からもう一歩進んでみたいと思います。

参考資料