飲みものの甘さは、どう設計されているのか

1. はじめに

前回のコラムでは、甘さをめぐる議論には「個人スケール」と「人口スケール」という二つのレイヤーがあることを整理しました。

私たちは日々、甘い飲みものを選ぶかどうかを判断します。
それは確かに個人の選択です。

けれど、私たちが手に取る商品そのものも、一定の考え方のもとで設計されています。
では、飲みものの甘さは、実際にどのように設計されているのでしょうか。

2. 甘さは、急には変わらない

まず知っておきたいのは、甘さは一気に大きく変えられるものではない、という点です。

仮に、ある飲料の糖の量を突然半分に減らしたとしたらどうなるでしょうか。

味ははっきり変わります。
長く親しまれてきた商品であればあるほど、違和感は強くなるでしょう。

そのため、多くの飲料メーカーでは、甘さを調整するとしても段階的に行うことが多いとされています。

数年かけて、少しずつ糖の量を下げる。
味全体の設計を見直す。
甘味の感じ方を工夫する。

変化は、目立たないかたちで進みます。
消費者が「急に変わった」と感じない範囲で、少しずつ設計が動いていくのです。

3. 表示が変わると、設計も動く ― コカ・コーラの事例

甘さの設計が動く背景には、制度の変化があります。

アメリカでは2010年代後半から、栄養成分表示に「Added Sugars(添加糖)」の表示が義務づけられました。
それまで「炭水化物」や「糖類」として一括りにされていた数字が、「どれだけ加えられた糖なのか」という形で明確に示されるようになったのです。

数字が可視化されると、消費者の見方が変わります。
そして消費者の見方が変わると、企業の設計もまた変わらざるを得ません。

以前取り上げたコカ・コーラの動きも、この流れと無関係ではありません。

コカ・コーラ社は、従来の主力商品に加えて「Coke Zero Sugar」を世界的に展開し、ブランド内で甘さの選択肢を拡張してきました。
ゼロシュガー商品は単なる“別商品”ではなく、同じブランド体験の延長線上に位置づけられています。

また、小容量パッケージの拡充も進めています。
例えば米国では、7.5オンス(約220ml)のミニ缶を拡大するなど、「量を選べる」設計が強化されました。
これは価格維持のための調整とは別に、一回あたりの摂取量を抑えるという設計思想と重なります。

さらに、同社は業界団体とともに「総カロリー削減目標」を掲げ、販売ポートフォリオ全体でカロリーを減らす取り組みを進めてきました。
これは、単一商品だけでなく、ラインナップ全体で平均値を動かすという発想です。

ここで重要なのは、「ある日突然、甘さを大きく減らした」という話ではないことです。

ゼロ商品を増やす。
小容量を拡充する。
ポートフォリオ全体でカロリーを下げる。

こうした複数の手法を組み合わせながら、少しずつ平均値を動かしていく。
それが実際の設計の進み方です。

4. 減らし方は一つではない

コカ・コーラの例からも見えるように、甘さの調整方法は一つではありません。

第一に、ゼロシュガーや低糖タイプの拡充。
第二に、小容量化による一回摂取量の抑制。
第三に、レシピそのものの改良です。

レシピ改良では、甘さの“体感”を保ちながら糖量を抑える工夫が行われます。
酸味や香り、炭酸の刺激とのバランスを調整することで、同じような満足感を維持しつつ、
糖の量を少しずつ動かしていくという考え方です。

ここで目指されているのは、「甘さをゼロにすること」ではありません。

無理をして味をつくるのではなく、
一定の基準の中で満足できる味をつくる。

その前提があるからこそ、段階的な設計変更が可能になります。

5. 「おいしさを保つ」という条件

実際に、あるグローバル企業では、「おいしさを保ちながら基準内に収める」ことを前提に、
糖の量を段階的に調整する方針を掲げています。

これは、味を犠牲にするという意味ではありません。
むしろ、味を守ることを前提条件にしながら、その範囲でどこまで動かせるかを検討するという姿勢です。

甘さは、好みの問題でもあります。
けれど、それだけではありません。
設計の問題でもあります。

個人が毎日強い意志で我慢し続けるのではなく、
商品そのものが少しずつ変わることで、無理のない変化が積み重なっていく。

この発想は、前回触れた「人口スケール」の考え方と重なります。
社会全体の平均摂取量を少しずつ動かすためには、個人の努力だけでなく、設計の側の工夫も必要だからです。

6. 甘さは「選ぶ」だけではない

私たちは、甘い飲みものを選ぶか、選ばないかを判断します。
それは確かに個人の選択です。

けれども、その前提となる商品は、すでに一定の基準や戦略のもとで設計されています。

甘さは、「あるか、ないか」という単純な二択ではありません。

どの程度の甘さを、どのような基準で、
どの場面に合わせて設計するのか。

そこには、制度の動き、科学的知見、企業戦略、消費者の価値観が重なり合っています。

飲みものの甘さは、偶然ではありません。

静かに、しかし確実に、設計されています。

では、そもそも最初から「基準」を決め、その基準に合わせて商品を設計する企業はあるのでしょうか。

甘さをあとから調整するのではなく、
最初から数値を前提に設計するという発想です。

次回は、その考え方をもう少し具体的に見ていきたいと思います。

甘さは、敵ではありません。
どう扱うかという、設計の問題なのです。

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