こね方で、ここまで変わるのか ― ベーグルの生地で確かめてみる ―
1. はじめに
前回のコラムでは、
餃子の皮で「水の温度」だけを変えたときに、
仕上がりがどのように変わるのかを見てきました。
同じ材料でも、
条件が一つ変わるだけで、
食感や印象は大きく変わります。
では、その違いは、
どのように生まれているのでしょうか。
これまでは、
水の量や温度といった、
外から与える条件を変えてきました。
今回は、
少し違った視点から、
「こね方」に注目してみます。
ベーグルは、もともとは東欧で生まれ、
現在ではニューヨークスタイルの
しっかりとした食感のものがよく知られています。
一方で、日本では、やややわらかく食べやすいものなど、
さまざまなスタイルへと広がっています。
同じベーグルでも、
その食感の違いはどこから生まれているのでしょうか。
同じ粉と水であっても、
こね方が変わると、
生地はどのように変わるのでしょうか。
2. こね方だけを変えてみる
ベーグルの生地は、
小麦粉と水、砂糖、塩、イーストという
シンプルな材料で作られます。
同じベーグルでも、
材料や配合の違いによって食感は変わりますが、
今回はその影響をできるだけ小さくします。
今回は条件を揃えるため、
小麦粉は強力粉のみを用い、
配合もすべて同じにしています。
こうすることで、
こね方による違いが見えやすくなります。
そのうえで、
変えるのは「こね方」だけとしました。
・こね時間が短い生地(約5分)
・しっかりこねた生地(約15分)
同じ材料であっても、
こねる時間や強さが変わることで、
どのような違いが現れるのかを見ていきます。
3. 触ってみると、すでに違う
まず、こねているときの感触が違います。
こね時間の短い生地は、
ややざらつきが残り、
まとまりはするものの、
表面は少し粗い印象があります。
一方で、しっかりこねた生地は、
なめらかでつるっとしており、
手で引っ張ると、
切れずに伸びていくような感触があります。
同じ粉を使っていても、
この時点ですでに、
生地の性質に違いが現れていることがわかります。
こね方という、
一つの条件を変えただけで、
ここまで手触りが変わるのは、
興味深いところです。
4. 成形で違いが出る
この違いは、
成形のしやすさにも表れてきます。
こねが短い生地は、
伸ばそうとすると途中で切れやすく、
形を整えるのに少し力が必要です。
一方で、しっかりこねた生地は、
よく伸び、なめらかに細長く成形することができ、
生地同士を合わせたときにも、自然になじみやすくなります。
同じベーグルの生地であっても、
扱いやすさそのものが変わってくるのです。
こねているときに感じた違いが、
成形のしやすさとして、
ここではっきりと表れてきます。

5. 加熱すると、違いがはっきりする
ベーグルは、焼く前に生地をゆでることで、
表面のたんぱく質が固まり、
内部の水分が保たれます。
そのため、外側はつるっとした張りがあり、
内側はもちっとした食感になります。
この工程によって、
パンとは異なる独特の食感が生まれます。
焼き上がりを見ると、
こね方の違いはさらに明確になります。
しっかりこねた生地は、
表面に張りがあり、
つやのある仕上がりになります。
噛んだときには、
しっかりとした弾力を感じます。
一方で、こねが短い生地は、
やや軽く、やわらかい食感になります。
同じ材料、同じ手順で作っていても、
こね方が違うだけで、
仕上がりの印象は大きく変わるのです。
6. なぜこね方で変わるのか
こうした違いは、
どこから生まれているのでしょうか。
小麦粉に水を加えてこねると、
小麦粉に含まれるたんぱく質同士が結びつき、
グルテンが形成されます。
こねるという操作は、
このグルテンをつなぎ、
網目のような構造を作る働きをしています。
こねる時間が長いほど、
グルテンはしっかりとつながり、
弾力のある生地になります。
一方で、こねが不足すると、
グルテンのつながりが弱く、
生地はやや粗い構造になります。
その結果として、
・弾力のある、噛みごたえのある生地
・やわらかく、軽い食感の生地
といった違いが生まれます。
こうした構造の違いが、
焼き上がりの食感として現れてくるのです。
7. 違いを比べることが、判断につながる
今回のように、
条件を一つだけ変えて比べてみると、
何が違うのかが見えてきます。
その違いを知ることで、
「どのように作りたいか」という判断につながっていきます。
しっかりとした弾力のあるベーグルがよいのか、
それとも、やわらかく軽い食感がよいのか。
どこまでこねるのか。
それは正解ではなく、
一つの選び方です。
料理は、
一つの答えを当てるものではなく、
条件の中から自分に合うものを選んでいくものです。
こうして少しずつ、
自分なりの基準が形づくられていきます。
次回は、「時間」に注目します。
同じ粉と水であっても、
休ませる時間が変わると、
生地はどのように変化するのでしょうか。
8. 参考文献
・Potter, J. 『Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ』
・長尾精一(1989)「小麦粉の知識(1) ーグルテンが小麦粉のいのちー」調理科学, 22(2), 125-130.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/22/2/22_125/_pdf/-char/ja
カルサイラボでは、
今回のように条件を一つずつ変えながら、
違いを確かめていく体験教室を行っています。
👉 体験教室のページはこちら
また、「粉と水」をテーマに、
条件の違いを段階的に考えていく
全8回のコースも予定しています。

