水の温度で、ここまで変わるのか ― 餃子の皮で確かめてみる ―
1. はじめに
前回のコラムでは、
肉まんの生地で「水の量」だけを変えたときに、
仕上がりがどのように変わるのかを見てきました。
同じ材料でも、
条件が一つ変わるだけで、
食感や印象は大きく変わります。
私はときどき、勉強も兼ねて、
いろいろなお店の餃子を食べてみます。
大ぶりで、皮はやや厚め、
もちっとしていて、焼き目はしっかり。
そんな餃子が好みです。
けれども、いろいろなお店で食べるたびに、
「同じ餃子でも、どうしてこんなに違うのだろう」
と感じることがあります。
では、その違い、
とくに餃子の皮の違いは、
どこから生まれているのでしょうか。
今回は、その一つとして、
「水の温度」に注目してみます。
2. 水の温度だけを変えてみる
餃子の皮は、
小麦粉と水、塩というシンプルな材料で作られます。
小麦粉には、含まれるたんぱく質の量に違いがあり、
その量が多いほど、こねたときに強いグルテンが形成されます。
強力粉は弾力のある生地になりやすく、
薄力粉はやわらかく軽い仕上がりになります。
中力粉や配合粉は、その中間的な性質を持っています。
餃子の皮は、
中力粉のみ、あるいは薄力粉と強力粉を配合して作られることが多く、
こうした粉の違いによっても、食感は変わります。
今回は条件を揃えるため、
薄力粉と強力粉を50:50で配合した生地を用いました。
塩の量も同じにしています。
そして、
変えるのは、水の温度だけです。
・熱湯で仕込んだ生地
・ぬるま湯で仕込んだ生地
同じ粉と水であっても、
温度が変わることで、
どのような違いが現れるのかを見ていきます。
3. 触ってみると、すでに違う
まず、こねているときの感触が違います。
熱湯で仕込んだ生地は、
やわらかく、なめらかで、
少しの力で広がるような感触があります。
一方で、
ぬるま湯の生地は、
ほどよい弾力があり、
押すとしっかり戻ってくる手応えがあります。
同じ粉を使っていても、
この時点ですでに、
生地の性質に違いが現れていることがわかります。
水の温度という、
一つの条件を変えただけで、
手触りがこれほど変わるのは、
興味深いところです。
4. 包むときに違いが出る
餃子の場合、
この違いは「包む工程」でよりはっきりと現れます。
熱湯で仕込んだ生地は、
よく伸び、
皮を薄く広げやすく、
包むときも破れにくくなります。
一方で、ぬるま湯の生地は、
伸びはやや控えめですが、
形を保ちながら包むことができます。
同じ餃子の皮であっても、
扱いやすさそのものが変わってくるのです。
こねているときに感じた違いが、
成形のしやすさとして、
ここではっきりと表れてきます。

5. 加熱すると、違いがはっきりする
焼き上がりを見ると、
その違いはさらに明確になります。
熱湯で仕込んだ生地は、
もちっとしたやわらかい食感になり、
口当たりがなめらかです。
一方で、ぬるま湯の生地は、
ほどよいコシがあり、
噛んだときに弾力を感じます。
同じように包み、同じように焼いていても、
仕上がりの印象ははっきりと変わってきます。
また、水餃子にすると、
その差はさらに感じやすくなります。
やわらかさや口当たり、
噛んだときの弾力の違いが、
よりはっきりと表れてきます。
同じ材料、同じ手順で作っていても、
粉に加える水の温度が違うだけで、
ここまで仕上がりが変わるのは、
少し意外に感じられるかもしれません。
6. なぜ水温で変わるのか
こうした違いは、
どこから生まれているのでしょうか。
小麦粉に水を加えてこねると、
たんぱく質同士が結びつき、
グルテンが形成されます。
水の温度は、
このグルテンの作られ方に影響します。
低めの温度では、
グルテンがしっかりと形成され、
弾力のある生地になります。
一方で、熱湯を使うと、
たんぱく質の一部が変性し、グルテンの形成が抑えられ、
さらに、でんぷんが部分的に糊化することで、
生地はなめらかで、
伸びやすい状態になります。
その結果として、
・弾力のある皮
・やわらかく、もちっとした皮
といった違いが生まれます。
こうした性質の違いが、
焼いたときの歯切れや、
ゆでたときの口当たりの違いとして
現れてくるのです。
7. 違いを比べることが、判断につながる
今回のように、
条件を一つだけ変えて比べてみると、
違いがどこから生まれているのかが見えてきます。
そして、その積み重ねが、
「自分はどちらを選ぶか」という判断につながっていきます。
歯ごたえのある皮がよいのか、
それとも、やわらかくなめらかな皮がよいのか。
焼き餃子にするのか、
水餃子にするのか。
どれが正解というわけではなく、
一つの選び方です。
たとえば、私の好みのもちっとした皮としっかりした焼き目の組み合わせも、
こうした条件の積み重ねの中で生まれているのかもしれません。
料理は、
一つの答えを当てるものではなく、
条件の中から自分に合うものを選んでいくものです。
こうして少しずつ、
自分なりの基準が形づくられていきます。
次回は、水の温度ではなく、
「こね方」に注目します。
同じ粉と水でも、こね方が変わると、
生地にどのような影響を与えるのでしょうか。
8. 参考文献
・Potter, J. 『Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ』
・McGee, H. 『マギー キッチンサイエンス 食材から食卓まで』
・長尾精一(1989)「小麦粉の知識(1) ーグルテンが小麦粉のいのちー」調理科学, 22(2), 125-130.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/22/2/22_125/_pdf/-char/ja
カルサイラボでは、
今回のように条件を一つずつ変えながら、
違いを確かめていく体験教室を行っています。
👉 体験教室のページはこちら
また、「粉と水」をテーマに、
条件の違いを段階的に考えていく
全8回のコースも予定しています。

