遺伝子組換え食品は、どのように評価されているのか ― 従来食品との違いを見るという考え方 ―
1. はじめに
前回までのコラムでは、ADIと安全係数、複数の物質を一緒に摂る場合の考え方について見てきました。
食品の安全性を考えるときには、その物質にどのような健康への悪影響が考えられるのか、
どのくらいの量で影響が現れるのか、実際にどのくらい摂取すると考えられるのかを確認します。
また、前回は、同じような健康への悪影響を持つ複数の物質を一緒に摂取する場合の
考え方について見てきました。
では、食品そのものに新たな性質が加わった場合は、どのように評価するのでしょうか。
その例として、今回は遺伝子組換え食品を取り上げます。
遺伝子組換え食品というと、難しい技術で作られた食品という印象を持つ方もいるかもしれません。
また、「なんとなく不安」「自然ではないのではないか」と感じる方もいると思います。
しかし、安全性評価で大切なのは、印象だけで判断することではありません。
・どのような変化が加わったのか。
・その変化は、従来から食べられてきた食品と比べて、どのような違いなのか。
・その違いが、健康への悪影響につながる可能性があるのか。
こうした点を一つずつ見ていくことが大切です。
今回はまず、遺伝子組換え食品とは何か、そして遺伝子組換え食品の評価では、
なぜ従来食品との比較が重要になるのかを見ていきたいと思います。
2. 遺伝子組換え食品とは何だろう
遺伝子組換え食品とは、遺伝子組換え技術を用いて作られた農作物や、
それを原材料とする食品のことです。
遺伝子とは、生物の性質に関わる情報を担っているものです。
農作物には、色や形、大きさ、味、成分の特徴のほか、病害虫への強さや、
特定の除草剤の影響を受けにくい性質など、さまざまな性質があります。
従来から、農作物では品種改良が行われてきました。
より育てやすいもの、病気に強いもの、収量が多いもの、味や品質がよいものなどを得るために、
人は長い時間をかけて農作物の性質を変えてきました。
遺伝子組換え技術も、農作物に新しい性質を持たせるための技術の一つです。
ただし、従来の品種改良と遺伝子組換え技術では、性質を変えるための方法や
進め方に違いがあります。
たとえば、遺伝子組換え技術は、特定の性質に関わる遺伝子を利用して、
農作物に新しい性質を持たせるために使われます。
具体的には、害虫に強い性質を持たせたり、特定の除草剤の影響を
受けにくくしたりする目的で使われることがあります。
ここで大切なのは、遺伝子組換え食品を考えるときに、
「遺伝子組換えだから危ない」「遺伝子組換えだから安全」とすぐに決めるのではなく、
どのような性質が加わったのかを具体的に見ることです。
つまり、評価の出発点は、「どのような変化が加わったのか」を確認することにあります。
3. なぜ評価が必要なのか
では、なぜ遺伝子組換え食品には安全性評価が必要なのでしょうか。
それは、遺伝子組換えによって、食品に新たな性質が加わる可能性があるからです。
新たな性質が加わること自体が、ただちに健康への悪影響を意味するわけではありません。
しかし、食品として食べる以上、その変化が健康にとって問題にならないかを
確認する必要があります。
・新しく作られるたんぱく質に、健康への悪影響につながる性質がないか。
・アレルギーを起こしやすい性質を持っていないか。
・食品の主要な成分に大きな変化が起きていないか。
こうした点は、安全性評価の中で確認する必要があります。
日本では、遺伝子組換え食品等を製造・輸入・販売するためには、
安全性審査を受ける必要があります。
審査を受けていない遺伝子組換え食品等や、
それを原材料に用いた食品等の製造・輸入・販売は、
食品衛生法に基づいて禁止されています。
厚生労働省は、組換えDNA技術の応用による新たな有害成分が
存在していないかなどについて、食品安全委員会の意見を聴き、
総合的に審査すると説明しています。
ここでも大切なのは、「遺伝子組換え」という言葉だけで判断しないことです。
安全性評価では、その食品にどのような変化が加わったのか、
その変化が健康への悪影響につながる可能性があるのかを確認していきます。
4. 従来食品と比べて、どこが変わったのかを見る
遺伝子組換え食品の評価で重要になるのが、従来食品との比較です。
ここでいう従来食品とは、これまで食べられてきた、
同じ種類の食品や農作物のことです。
たとえば、遺伝子組換え大豆であれば従来の大豆、
遺伝子組換えトウモロコシであれば従来のトウモロコシが比較の対象になります。
なぜ、このような比較をするのでしょうか。
それは、従来食品には、長く食べられてきた経験があるからです。
もちろん、長く食べられてきた食品だからといって、
どのような摂り方をしても問題がない、という意味ではありません。
しかし、従来食品と比べることで、遺伝子組換えによって新たに加わった性質や、
変化した可能性のある部分を見つけやすくなります。
食品には、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなど、
さまざまな成分が含まれています。
そのため、食品に含まれるすべての成分を一つ一つ評価するのではなく、
従来食品と比べて、遺伝子組換えによって変化した可能性のある部分に注目します。
たとえば、次のような点を確認します。
・新しく作られるたんぱく質は何か。
・主要な栄養成分に大きな違いはないか。
・もともと食品に含まれている成分の量が大きく変わっていないか。
こうした違いを確認することで、評価すべき部分を見つけていきます。
食品安全委員会でも、遺伝子組換え農作物と遺伝子組換えでない農作物との違いや、
食品としての安全性をどのような観点で評価するのかを説明しています。
つまり、遺伝子組換え食品の評価では、従来食品と比べて、
どこが変わったのかを確認することが出発点になります。
5. 化学物質のリスク評価と、どこがつながるのか
ここまで見てくると、遺伝子組換え食品の評価は、食品添加物や農薬の評価とは
少し違うように見えるかもしれません。
食品添加物や農薬の評価では、対象となる物質について、
どのような健康への悪影響が考えられるのか、どのくらいの量で影響が現れるのか、
実際にどのくらい摂取すると考えられるのかを確認してきました。
一方、遺伝子組換え食品の評価では、まず従来食品と比べて、
遺伝子組換えによってどのような変化が加わったのかを確認します。
そして、その変化の中に、健康への悪影響につながる可能性があるものがないかを見ていきます。
たとえば、新しく作られるたんぱく質については、その性質を確認します。
また、主要な栄養成分や、もともと食品に含まれている成分に大きな変化がないかも確認します。
このように、遺伝子組換え食品の評価では、従来食品との比較によって、
評価すべき部分を見つけていきます。
そのうえで、必要な項目について、健康への悪影響につながる可能性があるか
どうかを確認します。
つまり、対象のとらえ方は違っていても、
「何が変わったのか」「どのような影響が考えられるのか」
「実際に摂取することで健康への悪影響につながる可能性があるのか」を見ていく点では、
これまで見てきた食品安全性評価の考え方とつながっています。
難しい技術を使っているから特別に考える、というよりも、
まずは「何が変わったのか」「その変化が健康にどう関係するのか」を
整理して考えることが大切です。

6. おわりに
今回は、遺伝子組換え食品の評価について、最初の入口を見てきました。
遺伝子組換え食品とは、遺伝子組換え技術によって新しい性質を持たせた農作物や、
それを原材料とする食品です。
新しい性質が加わること自体が、ただちに健康への悪影響を
意味するわけではありません。
しかし、食品として食べる以上、その変化が健康への悪影響に
つながる可能性があるかどうかを確認する必要があります。
そのため、遺伝子組換え食品の評価では、まず従来食品と比べて、
どこが変わったのかを確認します。
そして、その違いの中に、健康への悪影響につながる可能性が
あるものがないかを見ていきます。
従来食品と比べて変化した部分を見つけ、
その変化が健康への悪影響につながる可能性があるかを確認するという考え方は、
これまで見てきた食品安全性評価の考え方ともつながっています。
食品の安全性を考えるときには、「遺伝子組換えだから」という言葉だけで
判断するのではなく、何が変わったのか、何と比べているのか、
どのような影響を見ているのかを分けて考えることが大切です。
次回は、遺伝子組換え食品の評価②として、従来食品との違いを確認したあと、
具体的にどのような項目を評価するのかを見ていきたいと思います。
たとえば、新しく作られるたんぱく質の性質、アレルギーとの関係、
栄養成分の変化などについて考えていきます。
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7. 参考資料
・厚生労働省「遺伝子組換え食品」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bio/idenshi/index.html
・厚生労働省「遺伝子組換え食品の安全性に関する審査」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/idenshi/anzen/anzen.html
・食品安全委員会「遺伝子組換え食品等」
https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/kumikae.html
・食品安全委員会「遺伝子組換え食品等専門調査会」
https://www.fsc.go.jp/senmon/idensi/





