水の量で、ここまで変わるのか ― 肉まんの生地で確かめてみる ―
1. はじめに
このコラムは、今回から2年目に入ります。
これまでの1年間では、
砂糖や小麦粉、油、水といったテーマを通して、
食の見方や考え方について整理してきました。
そして前回のコラムは、
「自分なりの基準をつくる」ということについて考えました。
では、その基準は、
どのように形づくられていくのでしょうか。
知識として知ることと、
実際に確かめて納得することは、少し違います。
これからは、
実際に手を動かしながら、
その違いを一つずつ確かめていきたいと思います。
2. 水の量だけを変えてみる
同じ材料でも、
条件が一つ変わるだけで、
仕上がりは大きく変わります。
今回は、肉まんの生地で、
水の量だけを変えてみました。
小麦粉の種類や配合、
イーストや塩の量はすべて同じにし、
変えたのは水の量だけです。
今回の比較では、
小麦粉100gに対して、
水の量を少し多いものと少し少ないものの2種類で仕込みました。
数字として見るとわずかな差ですが、
この「少しの違い」が、
どのような変化につながるのかを見ていきます。
3. 触ってみると、すでに違う
まず、こねているときの感触が違います。
水が多い生地はやわらかく、
手に吸いつくようにまとまります。
少し力を抜いても自然に広がり、
生地が自分から動いてくるような感覚があります。
一方で、水が少ない生地は、
やや締まった感触で、
こねるときに力が必要になります。
生地の動きもゆっくりで、
しっかり押していくような手応えがあります。
発酵の様子にも違いが現れます。
水が多い生地は、
全体がふんわりと広がるように膨らみ、
水が少ない生地は、
形を保ちながら、やや控えめに膨らみます。
この時点ですでに、
同じ材料であっても、
違いが現れていることがわかります。

4. 蒸し上がりで違いがはっきりする
蒸し上がりを見ると、
その違いはさらに明確になります。
水が多い生地は軽く、
ふんわりとした食感になります。
口に入れるとやさしくほどけるようで、
空気を多く含んだ軽さが感じられます。
一方で、水が少ない生地は、
弾力があり、
ややもちっとした食感になります。
噛んだときの戻りがあり、
しっかりとした存在感があります。
同じ材料、同じ手順で作っていても、
仕上がりの印象に違いが生まれることがわかります。
5. 水の量が変わると、なぜ変わるのか
こうした違いは、
どこから生まれているのでしょうか。
小麦粉に水を加えると、
たんぱく質が結びつき、グルテンが形成されます。
水はでんぷんにも関わり、
加熱によって糊化が進みます。
水の量が多い場合、
生地はやわらかくなり、
発酵で生まれた気泡が広がりやすくなります。
その結果、
蒸し上がりは軽く、ふんわりとした食感になります。
一方で、水の量が少ない場合、
生地の中の成分は密になり、
グルテンの影響も強くなります。
そのため、
弾力のある、やや締まった食感になります。
また、発酵では、
ドライイーストが糖を利用して炭酸ガスを生み出し、
その気泡が生地をふくらませます。
この気泡は蒸すことでさらに広がり、
肉まん特有のやわらかさが生まれます。
つまり、水の量は、
生地のやわらかさだけでなく、
気泡の広がり方や内部の状態にも影響しているのです。
6. 違いを比べることが、判断につながる
今回のように、
条件を一つだけ変えて比べてみると、
違いがどこから生まれているのかが見えてきます。
そして、その積み重ねが、
「自分はどうしたいか」という判断につながっていきます。
ふんわりと軽い生地がよいのか、
それとも、少し弾力のある生地がよいのか。
それは正解ではなく、
一つの選び方です。
料理は、
一つの答えを当てるものではなく、
条件の中から自分に合うものを選んでいくものです。
こうして少しずつ、
自分なりの基準が形づくられていきます。
次回は、水の量ではなく、
「水の温度」を変えたときに、
生地がどのように変わるのかを見ていきます。
同じ粉と水でも、
条件が変わると、また違った変化が現れます。
7. 参考文献
・Potter, J. 『Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ』
・長尾精一(1989)「小麦粉の知識(1) ーグルテンが小麦粉のいのちー」調理科学, 1, 43-47.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1968/22/2/22_125/_pdf/-char/ja
・瓦家千代子(1985)「小麦粉の調理」生活衛生, 29, 111-115.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/29/2/29_2_111/_pdf
カルサイラボでは、
今回のように条件を一つずつ変えながら、
違いを確かめていく体験教室を行っています。
体験教室のページはこちら
また、粉と水をテーマに、
条件の違いを段階的に考えていく8回のコースも予定しています。
