一つ一つは評価されていても、一緒に摂るとどうなるのか ― 複合影響の考え方 ―
1. はじめに
前回のコラムでは、ADI(許容一日摂取量)と安全係数の考え方について見てきました。
ADIは、食品添加物や農薬などについて、人が一生にわたって毎日摂取し続けても、
健康への悪影響がないと考えられる一日当たりの量です。
この考え方は、ある物質について、どのくらいの量までなら健康への悪影響がないと
考えられるのかを整理するために使われます。
ここでいう「物質」とは、食品添加物、農薬、汚染物質など、食品安全の評価対象
となるものを指します。
しかし、実際の食品や食事を考えると、ここで一つ疑問が出てくるかもしれません。
「一つ一つの物質については評価されているとしても、同じような影響を持つ物質を
一緒に摂る場合は、どう考えればよいのだろうか」という疑問です。
実際の食品や食事では、食品添加物、農薬、汚染物質などを、
いつも単独で摂取しているとは限りません。
同じような健康への悪影響を持つ物質を、複数同時に摂取する可能性もあります。
では、このような場合に、物質ごとの評価だけで十分なのでしょうか。
今回は、食品添加物、農薬、汚染物質などを対象とする評価の中で、
同じような健康への悪影響を持つ複数の物質を一緒に摂取する場合の考え方を
見ていきたいと思います。
2. まずは物質ごとに評価する
食品を通じて摂取する可能性のある物質には、さまざまなものがあります。
たとえば、食品添加物のように意図して使われるものもあれば、
農薬の残留や、環境中から入り込む汚染物質のように、
意図せず食品に含まれるものもあります。
複数の物質を一緒に摂取する可能性がある場合でも、
安全性評価では、まず対象となる物質ごとに考えることが基本になります。
・その物質には、どのような健康への悪影響が考えられるのか。
・どのくらいの量で影響が現れるのか。
・実際にどのくらい摂取すると考えられるのか。
こうした情報を物質ごとに整理し、必要に応じてADIやTDI(耐容一日摂取量)などの目安と
比べながら評価します。
つまり、複数の物質を一緒に摂取する可能性がある場合でも、
まずはそれぞれの物質について、どのような性質があり、
どのくらい摂取すると考えられるのかを確認します。
そのうえで、必要に応じて、
複数の物質を一緒に摂取する場合の影響を考えていきます。
3. 複数の物質を一緒に摂る場合はどう考えるのか
物質ごとの評価を行ったうえで、次に問題になるのは、
複数の物質を一緒に摂取する場合です。
特に、同じような健康への悪影響を持つ物質が複数ある場合には、
それぞれをまったく別々に考えるだけでよいとは限りません。
このような場合には、それぞれの影響が足し算になると
考えることがあります。
この考え方は、専門的には「相加性」と呼ばれます。
たとえば、同じような作用を持つ物質Aと物質Bがあるとします。
それぞれの摂取量が少なくても、同じ方向の影響を持つ場合には、
合わせた影響として考える必要がある場合があります。
つまり、相加性とは、「同じような影響を持つものは、
必要に応じて合計して考える」という見方です。
一方で、物質同士の関係は、いつも単純な足し算になるとは限りません。
ある物質が別の物質の影響を強めたり、弱めたりする可能性もあります。
このような物質同士の関係を、相互作用と呼ぶことがあります。
たとえば、一方の物質が、別の物質の体内での分解や排出に影響する場合には、
結果として影響が変わることがあります。
つまり、複数の物質を同時に摂取する場合には、まず物質ごとの評価を基本にしながら、
必要に応じて、相加性や相互作用といった考え方も使って考えていくことになります。

4. 実際の摂取量では、どう考えられているのか
前項で見たように、複数の物質を同時に摂取する場合には、
同じような影響が重なる可能性や、
物質同士の相互作用を考える必要がある場合があります。
では、実際に私たちが食品を通じて摂取している量で、
複合的な影響による健康への悪影響は問題になるのでしょうか。
ここで参考になるのが、食品安全委員会の考え方です。
食品安全委員会は、日本において、食品の健康影響について科学的にリスク評価を行う機関です。
食品添加物については、食品安全委員会が、ADIを設定するときに
安全係数が用いられていることや、実際の摂取量がADIを下回っていることなどから、
現在のところ、食品添加物を複合して摂取することによって、
健康への悪影響が実際に起こる可能性は極めて低いと説明しています。
また、食品添加物の複合影響に関する情報収集調査では、
個々の添加物として評価されている影響を超えた複合的な影響が
顕著に出ている事例は見出されていない、とされています。
このように、食品添加物を複合して摂取する場合の健康への悪影響については、
日常の摂取の範囲では、実際に起こる可能性は極めて低いと
整理されているといえます。
つまり、複合影響を考える場合にも、「複数あるから危ない」と直ちに判断するのではなく、
どのような影響が考えられるのか、実際にどのくらい摂取しているのかを
見ながら考えることが大切です。
5. おわりに
今回は、食品添加物、農薬、汚染物質など、食品安全の評価対象となる物質について、
複数の物質を一緒に摂取する場合の考え方を見てきました。
一つ一つの物質については、まず、それぞれの有害性や、どのくらいの量で影響が現れるのか、
実際にどのくらい摂取すると考えられるのかを確認します。
そのうえで、同じような健康への悪影響を持つ物質を複数同時に摂取する場合には、
影響が重なる可能性を考えることがあります。
このように、複数の物質の影響を考えるときには、
相加性や相互作用といった考え方も使われます。
一方で、食品添加物については、日常の摂取の範囲では、
複合して摂取することによる健康への悪影響が実際に起こる可能性は
極めて低いと整理されています。
食品の安全性を考えるときには、「含まれているかどうか」だけではなく、
「どのような影響が考えられるのか」「どのくらい摂取しているのか」を
落ち着いて見ることが大切です。
次回は、遺伝子組換え作物(GMO)の評価を例に、
食品全体に新たな変化が加わった場合の評価について見ていきます。
GMO評価では、食品をただ漠然と「安全かどうか」と見るのではなく、
従来から食べられてきた食品と比べて、どこに違いがあるのかを確認します。
そして、その違いが健康への悪影響につながる可能性があるのかを、
必要な項目ごとに評価していきます。
つまり、評価対象が食品全体に広がる場合でも、何を評価しているのか、
何と比べているのか、どのような影響を見ているのかを
分けて考えることが大切になります。
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6. 参考資料
・食品安全委員会「食の安全ダイヤルに寄せられた質問等Q&A(リスク評価全般)」
https://www.fsc.go.jp/dial/dialqa20170608_2.html#a200
・厚生労働省「残留農薬 よくある質問」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/faq.html
・食品安全委員会「食品添加物の複合影響について」
https://www.fsc.go.jp/fsciis/questionAndAnswer/show/mob07005000002
・食品安全委員会「食品添加物の複合影響に関する情報収集調査報告書」
https://www.fsc.go.jp/fsciis/survey/show/cho20070330001

