食品の安全性評価シリーズを振り返る ― 何を対象に、何を比べ、どう判断するのか ―

1. はじめに

これまでの食品の安全性評価シリーズでは、食品の安全や健康影響について、いくつかの例を通して見てきました。

第1回では、「安全とは何か」という問いから始めました。
第2回では、安全性評価を考えるための4つの視点を整理しました。
その後、ADIと安全係数、複合影響、遺伝子組換え食品、そして遊離糖類について見てきました。

扱った対象は、それぞれ異なります。
食品添加物や農薬では、特定の物質について評価します。
複数の物質を一緒に摂る場合の影響を考えることもあります。
遺伝子組換え食品では、従来食品との違いに注目します。
また、遊離糖類では、現代の食生活の中で摂取量と健康影響の関係を見ます。

食品の安全性や健康影響を考えるときに大切なのは、一つの言葉や印象だけで判断することではありません。

何を対象にしているのか。
何と比べているのか。
どのくらい摂取しているのか。
どのような健康への悪影響と関係しているのか。
そして、その結果をどのような判断につなげているのか。

これらを一つずつ整理して考えることが大切です。
今回は、これまでの食品の安全性評価シリーズ全体を振り返りながら、「何を対象に、何を比べ、どう判断するのか」という視点で整理してみたいと思います。

この図では、これまで見てきた内容を、「何を対象にしているのか」「どのような健康への悪影響を見るのか」「どのくらい摂取するのか」「何と比べ、どのような判断につなげるのか」という視点で整理しています。

まずは、何が評価の対象となっているのかを見ていきます。

2. まず、何を評価対象にしているのかを見る

食品の安全についての情報に触れるときには、何が評価の対象になっているのかを確認することが大切です。

食品の安全性評価では、対象となるものを明確にしたうえで、その性質や摂取量、健康への悪影響との関係を見ていきます。

たとえば、食品添加物であれば、評価対象となる物質を見ます。
農薬であれば、対象となる農薬成分を見ます。
遺伝子組換え食品であれば、従来食品と比べて変化した可能性のある部分を見ます。
遊離糖類であれば、糖質全体ではなく、WHOが定義した遊離糖類を対象として見ます。

「何を評価対象にしているのか」を確認することで、その後に示される健康への悪影響、摂取量、比較や判断の意味を、より正確に読み取ることができます。

3. どのような健康への悪影響を見るのか

次に見るのは、どのような健康への悪影響が考えられるのか、という点です。
食品の安全性評価では、対象となるものについて、どのような健康への悪影響が起こり得るのかを確認します。

食品添加物や農薬では、動物試験などを通じて、どのような健康への悪影響が見られるのかを調べます。
そのうえで、どのくらいの量で影響が見られるのかを確認します。

一方、遊離糖類では、摂取量と体重増加・肥満、う蝕などとの関係が検討されています。
これは、遊離糖類そのものを、ただちに健康への悪影響をもたらすものとして扱うという意味ではありません。
摂取量が多くなることで、こうした健康影響の可能性がどのように変わるかを見ているということです。

遺伝子組換え食品では、新しく作られるたんぱく質の性質や、アレルギーとの関係、栄養成分やもともと含まれている成分の変化などを確認します。
ここでも、「遺伝子組換えである」という理由だけで判断するのではなく、どのような違いがあり、その違いが健康への悪影響につながる可能性があるのかを見ています。

このように、食品の安全性評価について考えるときには、どのような健康への悪影響が検討されているのかを読み取ることが大切です。

4. 「量」を見なければ、リスクは判断できない

食品の安全性評価で、もう一つ大切なのが「量」です。

ある成分や物質に健康への悪影響をもたらす性質があったとしても、それだけで実際のリスクが決まるわけではありません。

どのくらいの量で影響が現れるのか。
実際にどのくらい摂取しているのか。
その両方を見る必要があります。

ADIは、「量」を考える代表的な例です。
ADIは、食品添加物などについて、人が生涯にわたって毎日摂取しても、健康への悪影響がないと考えられる一日当たりの量です。
動物試験などで健康への悪影響が見られなかった量をもとに、安全係数を用いて設定されます。

一方、先週取り上げた遊離糖類の10%未満、5%未満という数字は、ADIではありません。
これは、遊離糖類の摂取量を抑え、体重増加やう蝕などの健康リスクを下げるために示された摂取目標です。

つまり、ADIは「健康への悪影響がないと考えられる摂取量」を示すものであり、遊離糖類の10%未満、5%未満は「健康リスクを下げるために目指す摂取量」を示すものです。

数字を見るときには、その数字が、どのような評価に基づき、何を示しているのかを確認することが大切です。

5. 複合影響は、複数あることだけでは判断できない

食品の中には、さまざまな成分や物質が含まれています。

食品添加物、農薬、自然に含まれる成分、調理によって生じる成分など、私たちは多くのものを一緒に摂取しています。
そのため、一つ一つの物質について評価されていても、複数の物質を一緒に摂取した場合に、影響がどのように現れるのかを考える必要があります。
このように、複数の物質を同時に摂取したときに、それらの影響をどのように考えるかが、複合影響のテーマです。

複数の物質が同じような影響を持つ場合には、それらの影響が足し合わされることがあります。
一方で、単に複数の物質があるというだけで、健康への悪影響が大きくなると判断することはできません。

どのような健康への悪影響が考えられるのか。
実際にどのくらい摂取しているのか。
その量で健康への悪影響につながる可能性があるのか。
これらを一つずつ整理して見る必要があります。

複合影響は、不安につながりやすいテーマです。
だからこそ、「何が、どのくらい、どのように影響する可能性があるのか」を整理して考えることが大切です。

6. 遺伝子組換え食品では、従来食品との違いを見る

遺伝子組換え食品の評価では、従来食品との比較が重要になります。
食品に含まれる成分を一律にすべて確認するのではなく、従来食品と比べて、どこが変わった可能性があるのかに注目します。

新しく作られるたんぱく質は、どのような性質を持っているのか。
アレルギーとの関係はどうか。
栄養成分や、もともと含まれている成分に大きな変化はないか。
こうした点を確認します。

つまり、遺伝子組換え食品では、「遺伝子組換えである」という理由だけで判断するのではありません。
従来食品と比べて、どのような違いがあるのか。
その違いが、健康への悪影響につながる可能性があるのか。
そこを見ていくことが、評価の出発点になります。

従来食品との比較は、評価の結論そのものではありません。
評価すべき違いを見つけ、その違いについて必要な確認を行うためのものです。

何と比べているのかを確認することで、評価で注目している違いが分かりやすくなります。

7. 遊離糖類では、摂取量と健康影響の関係を見る

前回のコラムでは、WHOの遊離糖類ガイドラインを取り上げました。
WHOが定義した遊離糖類について、人の食生活の中で、摂取量と健康影響がどのように関係するのかを見ています。

ここで重要なのは、遊離糖類は砂糖そのものを悪者にするための概念ではないということです。
清涼飲料水や加工食品などを通じて、摂取しやすい形で糖類を多く摂る機会が増えたことを背景に、体重増加・肥満、う蝕などとの関係が検討されています。

WHOが示す10%未満、5%未満という数字は、健康リスクを下げるための摂取目標です。
これは、集団全体として、遊離糖類の摂取量をどの程度に抑えることが望ましいかを示したものです。

遊離糖類の評価を理解するときには、何を対象にしているのか、どのくらい摂取しているのか、どのような健康影響との関係を見ているのかを確認することが大切です。

8. 食品の見方が、「安全を考える視点」につながっていく

ここまで、食品添加物や農薬、複合影響、遺伝子組換え食品、遊離糖類を例に、食品の安全性や健康影響の考え方を見てきました。

食品添加物や農薬では、有害性と摂取量を確認します。
複合影響では、複数の物質を一緒に摂取したときの影響を考えます。
遺伝子組換え食品では、従来食品との違いを確認し、その違いについて必要な評価を行います。
遊離糖類では、摂取量と体重増加・肥満、う蝕などとの関係を見ています。

大切なのは、それぞれの評価で、何を根拠にどのような判断が示されているのかを具体的に見ることです。

食品の安全性や健康影響についての情報は、ときに一つの言葉だけで伝えられます。

「添加物が入っている」
「農薬が使われている」
「遺伝子組換えである」
「糖が多い」

しかし、こうした言葉だけでは、その評価の内容まで理解することはできません。

何を評価対象にしているのか。
何と比べているのか。
どのくらい摂取しているのか。
どのような健康への悪影響との関係を見ているのか。
その結果を、どのような判断につなげているのか。

これらを一つずつ整理して見ることで、食品についての情報を、より丁寧に読み取ることができます。

食品の安全性評価を学ぶことは、専門的な基準や数字を覚えることだけではありません。

食品についての情報に触れたときに、その言葉や数字が何を示しているのかを考える視点を持つことでもあります。
そうした視点が、日々の食卓で食品を見る力につながっていくのだと思います。

9. おわりに

今回で、食品の安全性評価シリーズは一区切りになります。

「安全とは何か」という問いから始まり、安全性評価の4つの視点、ADIと安全係数、複合影響、遺伝子組換え食品、遊離糖類まで、いくつかの例を通して食品の安全性や健康影響について見てきました。

このシリーズで大切にしてきたのは、一つの言葉や数字だけで判断するのではなく、何が評価され、どのような根拠から、どのような判断が示されているのかを確かめることです。

食品の安全性評価は、少し専門的で難しく見えるかもしれません。

しかし、私たちが理解するうえで大切なのは、食品についての情報を丁寧に見ることです。
一つの言葉や数字だけに注目するのではなく、その背景にある評価の内容を見る。
それが、食品についての情報との付き合い方を考えるための土台になると思います。

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