砂糖は「10%未満」なら安全なのだろうか― WHOの遊離糖類ガイドラインを、もう一度考える ―
1.「砂糖と甘さ」の途中ですが
ここ数回のコラムでは、「砂糖と甘さ」をテーマに、実際にお菓子を作りながら、砂糖の量によって仕上がりがどのように変わるのかを見てきました。
マフィン、プリン、そしてシフォンケーキ。
砂糖を減らせば、もちろん甘さは変わります。
でも、実際に作って比べてみると、砂糖は甘さだけでなく、焼き色や食感、メレンゲの状態などにも関わっていることが見えてきました。
今回は、この「砂糖と甘さ」の話を一度お休みして、少し違う角度から砂糖を見てみたいと思います。
以前、カルサイラボでは「食品の安全性評価」というシリーズを書きました。
その中で、WHO(世界保健機関)が示している「遊離糖類」の摂取量についても取り上げました。
WHOは、遊離糖類の摂取量を、1日の総エネルギー摂取量の10%未満にすることを勧め、さらに5%未満に減らすことも提案しています。
では、この「10%未満」という数字は、「10%未満なら安全」という意味なのでしょうか。
最近、この数字の意味を改めて考える機会がありました。
今回は、そのときに見えてきたことをご紹介したいと思います。
2.「安全な量」という考え方
食品の安全性を考えるとき、「どのくらいまでなら摂っても大丈夫なのだろう」と考えることがあります。
以前のコラムでは、食品添加物などの評価で使われるADI(許容一日摂取量)について紹介しました。
ADIは、人が一生にわたって毎日摂取し続けても、健康への悪影響がないと考えられる一日当たりの量です。
食品添加物や農薬などでは、試験結果などをもとにこのような値を設定し、実際の摂取量と比べながら安全性を評価します。
ただし、砂糖は食品添加物ではなく、私たちが日常的に摂取している栄養成分です。
そのため、砂糖について「安全な量」を考える場合には、ADIではなく、UL(耐容上限量)などを設定できるか、という形で検討されます。
ここで一度、「安全な量」を表す考え方を整理してみましょう。
食品添加物などで使われるADI、栄養素などで使われるULがあります。
また、ULを設定できない場合には、「この量までなら健康への悪影響のリスクがないと判断できる量」を特定できるか、という考え方もあります。
対象とするものによって、「安全な量」の考え方も同じではありません。

このように、「安全な量」といっても、対象とするものによって、その考え方は異なります。
では、WHOが示している「10%未満」という数字は、このような安全な摂取量に相当する数字なのでしょうか。
今回、そこを確認するために、WHOのガイドラインだけでなく、欧州食品安全機関(EFSA)が糖類について行った評価も見てみました。
3.砂糖では、どんな健康への影響が調べられているのか
砂糖の健康への影響というと、「太る」「肥満になる」という話を思い浮かべる方も多いかもしれません。
でも、糖類について検討されてきたのは、体重だけではありません。
EFSAでは、う蝕や体重だけでなく、血糖や血中脂質、2型糖尿病など、さまざまな健康への影響について検討してきました。
2010年の評価では、こうした影響を検討したものの、添加糖類について明確な上限量を設定するには、データが十分ではないとされました。
では、その後、研究が蓄積されれば、「ここまでなら安全」という量を決めることができたのでしょうか。
そこで、2022年に公表されたEFSAの評価を見てみます。
4.「ここから危険」という境目は見つかったのか
EFSA 2022では、その後に蓄積された研究も含めて、糖類と健康との関係が改めて評価されました。
検討されたのは、総糖類、添加糖類、遊離糖類について、UL(耐容上限量)または安全な摂取量を設定できるかということです。
結論からいうと、いずれについても、ULまたは安全な摂取量を設定することはできませんでした。
これは、糖類と健康への影響との関係が何も分からなかった、ということではありません。
EFSA 2022では、う蝕、体重・肥満、代謝への影響などについて検討しています。
添加糖類や遊離糖類については、介入試験で一部の健康指標への影響がみられ、加糖飲料については、摂取量と疾患の発症との関連も検討されました。
それでも、「この量以下なら、有害な健康影響のリスクは増加しない」と判断できる摂取量を特定することはできませんでした。
ここは、食品の安全性を考えるうえで、とても興味深いところです。
健康への影響について詳しく調べても、必ず「ここまでなら安全」という一本の線が引けるわけではないのです。
では、そうだとすれば、WHOが示している「10%未満」は、いったいどのような数字なのでしょうか。
5.では、WHOの「10%未満」は何なのだろう
WHOは、遊離糖類について、総エネルギー摂取量の10%未満という数字を示しています。
さらに、5%未満に減らすことも提案しています。
けれども、ここまで見てくると、この数字を、
10%未満=安全
10%以上=危険
という境界線として読むのは適切ではないことが分かります。
WHOのガイドラインは、EFSA 2022のように、ULや安全な摂取量を設定できるかどうかを正面から検討したものではありません。
WHOのガイドラインでは、遊離糖類の摂取量と、う蝕や体重増加・肥満との関係が主な根拠となっています。
そうした健康への影響を減らすために10%未満を勧め、さらに5%未満に減らすことも提案しています。
EFSAの評価と合わせて考えると、WHOの数字は、「ここまでなら安全」という安全量ではなく、健康へのリスクを減らすための摂取目標として理解する方がよさそうです。
ここまでの話を、一枚の図にまとめてみました。
「10%未満」という数字だけを見ると、安全と危険を分ける境界線のように見えるかもしれません。
でも、この数字が何を目的として示されたものなのかを見ると、その意味は少し違って見えてきます。

6.同じ「数字」でも、意味は同じではない
食品や健康について調べていると、さまざまな数字に出会います。
「○mgまで」
「○%未満」
「1日○g」
数字が示されると、つい、その数字のこちら側が安全で、向こう側が危険であるように感じてしまいます。
でも、その数字がどのように決められたのかによって、意味は違います。
健康への悪影響が起こらない量として設定された数字なのか。
ある健康影響のリスクを減らすための目標なのか。
あるいは、栄養を適切に摂るための目安なのか。
今回、WHOの「10%未満」という数字を改めて見てみると、数字だけでは分からないことも見えてきます。
何を対象にした数字なのか。
どのような健康への影響をもとにしているのか。
そして、その数字をどのような目的で使うのか。
「10%未満なら安全なのか」と問い直してみたことで、WHOのガイドラインが示している数字の意味も、少し違って見えてきました。
食品や健康についての数字に出会ったとき、すぐに「安全」「危険」と分けるのではなく、「これは、何を表す数字なのだろう」と少し立ち止まって考えてみる。
それも、食品の安全を考えるための一つの方法なのだと思います。
カルサイラボでは、実際に作って、比べてみることで、料理の中で起きている変化を楽しむ体験教室を行っています。
現在は「粉と水」をテーマに、粉と水の量や温度、作り方の違いが仕上がりにどう表れるのかを、一緒に作りながら確かめています。
ご興味がありましたら、体験教室のご案内もぜひご覧ください。
体験教室のご案内はこちら
7.参考文献
- WHO(2015)Guideline: Sugars intake for adults and children.
https://www.who.int/publications/i/item/9789241549028 - EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition, and Allergies(2010)Scientific Opinion on Dietary Reference Values for carbohydrates and dietary fibre.
https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.2903/j.efsa.2010.1462 - EFSA Panel on Nutrition, Novel Foods and Food Allergens(2022)Tolerable upper intake level for dietary sugars.
https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.2903/j.efsa.2022.7074

